今回は、米澤穂信先生・著作の「本と鍵の季節」を読了し、面白かったので感想レビューしたいと思います。
童顔のお人好し・堀川次郎と、世界を斜に見る背の高いイケメン・松倉詩門の男子高校生ふたりが、図書室に持ち込まれる謎を解いていく。
本の帯には「 爽やかでほんのりビターな図書室ミステリ、開幕!! 」と煽り文句がありました。
ほんのりビターなのかぁ…と、思って読んでみましたら「 ほんのり 」どころではなかったです。
ですが、有名なアニメの高校生探偵のように殺人や派手なテロは起こりませんので安心してください。
学校の放課後に起こるミステリ。
「 図書委員ミステリ 」という、なかなか出会えないジャンル。
しかし青春ミステリか〜と侮っていたら、足元すくわれますよ!
( 筆者はみごとにすくわれて、すっ転んでハマりました )
犯人などの謎に関しての重要なネタバレはナシで、紹介していきます。
よかったら、見ていってください。
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米澤穂信「 本と鍵の季節 」

(楽天Koboより引用)
- 著者:米澤穂信(よねざわ ほのぶ)
- レーベル:集英社文庫
- シリーズ名:<図書委員シリーズ>
- 発行日:2021年07月01日
- 紙書籍(文庫):880円(参考価格)
- 電子書籍(楽天Kobo・Amazon Kindle):792円

登場人物
- 堀川次郎(ほりかわ じろう)
- 童顔の高校2年生
- 図書委員で手先が不器用な松倉詩門に代り、本の補修や新刊に押す蔵書印などデリケートな作業を担っている
- よく人に頼まれごとをされる、言わなくてもいいことを言ってしまうのが玉に瑕。
- 松倉詩門(まつくら しもん)
- 背が高く顔もいい高校2年生
- 同じく図書委員
- 過去になにがあったのか皮肉屋で、人をまるごと信用することがない。
基本的にはこのふたりの会話で話は進みます。
謎解きの知的なディスカッションもいいですが、高校生男子らしい日常のくだらない会話のキャッチボールが楽しかったです。
イチオシポイント
本作の「 本と鍵の季節 」は、短編が6編で構成されています。
面倒見のいい、頼まれたら断れない性格の堀川次郎と。
高校2年生にはみえないくらい、いつも物事を斜に見ているような、とらえどころのない松倉詩門。

読みはじめは、堀川くんがワトソンで松倉くんがホームズなのかな?と思っていました。
ところがどっこい、です。
堀川くんのセンスのある視点が、松倉くんの推理と着想を補っていくのです。
ふたりで一緒に、疑惑の答えの落とし穴をすこしずつ埋めていき、答えまでの道を通れるようにしていく様子がよかったです。
「 913 」
閑散とした図書室で委員会の仕事を、のんびりとしていた堀川と松倉。
そこに6月図書委員を退いた3年の先輩・浦上麻里(うらがみ まり)がやってくる。
「 いい話があるの。アルバイトをしない? 」と、ふたりに持ちかける浦上先輩。
亡くなった祖父の遺した「開かずの金庫」の番号を探り当ててくれ、というものだった。

図書委員ならではの着眼点と、思考の流れがおもしろかったです。
疑い深い松倉くんと、純粋に謎を解いて金庫を開けてみたらいいと思っている堀川くんの対比が浮き彫りになっています。
図書室から始まった高校生のアルバイト話の結果が、思いの外ガッツリとした悪意にまみれていたのには正直驚きました。
高校生は立派に大人の入口に立っている年齢なんだよな〜と、再認識。
「 ロックオンロッカー 」
高校2年の夏が始まったころ、堀川と松倉はほとんど同時に髪を切ろうと思い立った。
しかし、松倉の行きつけの床屋が店を閉めてしまっていたのだ。
そんな時、堀川の財布の中には偶然にも「 ご友人を紹介いただくと、カット料金4割引 」の割引券が入っていた。
そしてふたりは、仲良く(?)連れ立って散髪に向かうことになるのだが。
繁華街の一角にある流行りの美容室に着いた途端、店長の不可思議な対応に遭う。

さすがは「 巻き込まれ型 」の堀川くん、美容院でもおかしなことに遭遇します。
堀川くんと松倉くんが、「 4割の割引券を使うために一緒に散髪に行く 」という状況を、自分たちに納得させようとする過程がアホっぽくて(褒めてます)楽しいです。
美容院で起きた、ちょっとチグハグな出来事。
実害はないものの、自分たちがなにかに巻き込まれているような感覚がある。
それらの疑問に答えを出しつつ、それでも傍観者を決め込もうとするふたりです。
たぶん筆者なら、なんか変だな?と思いつつ普通に終わると思います。
「 金曜に彼は何をしたのか 」
7月、期末テストを控えたテスト準備期間中。
閉鎖されてる図書室に、堀川と松倉はなぜか自主的かつ非合法な残業で、図書委員の仕事をしに来ていた。
そこには、図書委員という立場を利用して1年の植田登(うえだ のぼる)が、テスト勉強のために入り込んでいた。
植田の兄・植田昇(うえだ しょう)は他校の連中とケンカしたり補導されたりとちょっとした有名人だった。
そして期末テスト初日の月曜日、「 職員室の近くの窓が割られていた 」ことが発覚する。
すると、植田登の兄・昇が「 テストを盗もうとした 」として疑われてしまう。

今回は、アリバイ(現場不在証明)探しです。
登くんの兄・昇くんは、「学校の窓を割って、テストを盗もとした」として疑われています。
ですが、「 証拠があるから大丈夫だ 」と言いつつも、その夜の行動を話そうとしません。
親と、自分も安心したいとの理由で登くんは、堀川くんと松倉くんに兄・昇くんの行動の証拠を部屋で探って欲しいと頼みます。
堀川くんは引き受けますが、得体のしれない話が嫌いな松倉くんもめずらしく付いてきます。
ひとつの謎が解き明かされても、なんとなくしっくりこない。
そんなふうに二重の罠が張られているのも、このシリーズのおもしろさではあります。
「 ない本 」
この一週間というもの、自ら命を絶った3年生が校内の最大の話題だった。
そして図書室で貸出カウンターに座る、図書委員の堀川と松倉のふたりは暇だった。
「 題名しりとり 」でも始めようかとしてる時に、「 本をさがしているんだ 」という3年生がやってくる。
ひさしぶりに図書委員らしい仕事に沸き立つ堀川だったが、「亡くなった3年生が最後に借りた本」を探しているという。
しかし本の題名も、作者も、どんな本だったかもわからないと言うのだ。

「 最後に借りた本 」を探すなら、貸出記録を見ればすぐじゃないか!と思います。
ですが残念なことに、この学校の図書室のシステムでは貸出記録は検索できないのでした。
そうとなれば、図書室にある数万冊の中からたった一冊を探すということになります。
張り切る堀川くんがかわいいです。
大人からすれば微笑ましい行動でも、本人はイキっていたようで恥ずかしかったりしますよね。
そんな何気ない描写が、読者を高校時代に還らせてくれるうまいところな気がしました。
結末は、苦しく哀しいものですが、変えることのできないことは人生に何度か起こります。
それでも、失敗を繰り返しながら人は進んでいかなければいけないのです。
「 昔話を聞かせておくれよ 」
図書室で委員会の仕事に勤しんでいた堀川のとなりで、新聞を読んでいた松倉。
すると松倉は「 昔話でもしようぜ 」と訳の分からないことを言い出した。
テーマは「 復讐と宝探し 」
戸惑う堀川に、松倉はどうしても「 昔話 」をさせたいらしい。
仕方なく堀川は小学校2年の夏、父親と親戚3人とで市民プールでした宝探しの昔話をはじめる。
続いて松倉は自分から言いだしたくせに、何かを思い切ったように「 昔話 」を話し出した。

唐突にはじまる堀川くんと松倉くんの「 昔話 」
ですが、それは苦い宝探しへのプロローグでした。
どこかで、堀川くんの「 新たな視点 」を期待していた松倉くんなりの精一杯のSOSだったような気がします。
世界を斜めに見ているような松倉くんの、プライベートな側面が描かれます。
どこか影のある、なにか含みをもせた顔を見せる高校生2年生。
「 宝探し 」にドキドキしながら、松倉くんの隠していたことが少しづつ明らかになります。
「 友よ知るなかれ 」
松倉詩門の宝探し。
堀川は湧いてきたその疑問を解決するために、朝早くから自転車で駅前の図書館に来ていた。
松倉の昔話の情報から、過去に起きたであろう事件を調べ始める堀川。
堀川は、松倉が知られたくないと思っていた事実にたどり着いてしまう。

単行本描き下ろし作品でした。
「 昔話を聞かせておくれよ 」の細かいところが気になっていたので、すごくありがたい描き下ろしです。
米澤先生ありがとうございました!
松倉くんの宝探し。
心を囚われてしまった出来事。
必死に松倉くんを引き留めようと言葉を尽くす堀川くんに、胸をうたれます。
「 偽善 」で「 理想論 」だけど、ただの図書委員でいて欲しい。
堀川くんは月曜日に図書室で、松倉くんが来るのを待つのです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
「 本と鍵の季節 」は、表紙のデザインが綺麗で手に取った作品でした。
図書委員の男子高校生が、わちゃわちゃと推理するような青春ミステリという感じかな?と想像して。
ですが最初の「913」で、ガツンとヤラれました。
それはたぶん、筆者が堀川くんタイプだからだと思います。
性善説なのです。
人の悪意が全開な「 推理小説 」を好んで読んでいますが、どこかで人間の根っこに「真実」があると期待してしまう。
容赦ない現実に落ちていきそうな時に、手を掴んで引き戻してくれる友人。
堀川くんと松倉くんの関係が、とても素敵でした。
続編が読みたい!と期待したら、こちら<図書委員シリーズ>として第二弾がありました!
「 栞と嘘の季節 」こちらは長編だそうです。
読むのが楽しみです。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
まめでした。
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