今回は、北欧ミステリの帝王と呼ばれる「 ヘニング・マンケル 」の著作「 北京から来た男 」を読み終えたので、感想レビューしていきます。
「 ヘニング・マンケル 」といえば、「刑事ヴァランダー」シリーズで知られた、北欧ミステリの第一人者ですよね。
しかし「 北京から来た男 」は、「 刑事ヴァランダー 」シリーズの作品ではなく独立した物語となっていますので、ご注意ください。
本の帯には、「 北欧ミステリの帝王 マンケルの集大成 」と宣伝文句がありました。
これは、見逃せないと手に取った次第です。
ドラマの「 刑事ヴァランダー 」は全話の視聴を完走したので、雰囲気は掴んでいる気でいました。
ですが、原作の小説を読んだことがありませんでしたので、これが初めて読む「 ヘニング・マンケル 」となります。
結果としては、初めての「 ヘニング・マンケル 」としては重厚すぎましたねぇ。
では、面白くなかったのか?と聞かれると、これが面白かったんです!
ただし謎解きミステリ小説を期待して読むと、「 こうなのか!えー! 」と、浅い落とし穴に落ちたような気持ちになりました。
なぜ、そんな気持ちになったのか。
ちょっと感想レビューをするのが、難しい作品ですが。
作品のみどころなどを、犯人などのネタバレはナシで、紹介していきます。
よかったら、見ていってください。
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「 北京から来た男 」

「 北京から来た男 」上・下
- 著者:ヘニング・マンケル
- 訳者:柳沢 由美子
- 2014年7月25日 初版
- 発行:東京創元社
原題は「 KINESEN(シーネセン) 」スウェーデン語で「 中国人 」という意味です。
「 北京から来た男 」は、英語版のタイトルの「 THE MAN FROM BEIJIN 」からきています。
あらすじ
凍てつくような寒さの未明、スウェーデンの小さな谷間の村でその惨劇は起きた。
ほぼ全ての村人が惨殺されていたのだ。
ほとんど老人ばかりの過疎の村が、なぜ?
( 本文内容紹介から引用 )
このあらすじだけで、めちゃくちゃ興味が出て読み始めました。
「 村人が惨殺 」というと、横溝正史先生の「 八つ墓村 」を思い起こさせますが。
殺されたのが「 ほとんど老人ばかり 」と聞くと、「 え、なんで? 」って感じですよね。

それも、村の老人たちの遺体の状態は、凄惨なものでした。
「 日本刀のような刃物 」で、文字通りに一刀両断しているのです。
なかには苦しめてから殺されたような遺体もあり、容赦のないその殺害方法に、現場は地獄のような惨状です。
これほどの強い殺意。
誰が、なんのために?
老人ばかりの過疎の村「 ヘッシューヴァレン 」から始まった事件は、その後なんとスウェーデンどころか開拓時代のアメリカ、中国、アフリカ、ロンドンと各国を舞台に展開していくのです。
登場人物
- ビルギッタ・ロスリン( ヘルシングボリの裁判官。中年の危機に陥っている )
- ヴィヴィ・スンドベリ( ヒューディクスヴァル警察署の50代の大柄な女性警察官。優秀といわれている )
- ラーシュ・エマニュエルソン( ヘッシューヴァレン虐殺事件について、しつこくビルギッタを追いかけてくるジャーナリスト )
- カーリン・ヴィーマン( ビルギッタの大学時代の友人。中国の専門家 )
- ヤ・ルー( 現代中国経済の重要人物。経営者で富豪 )
- ホンクィ( ヤ・ルーの姉。中国社会の未来を憂い、弟のやり方に反発している )
語り手がコロコロ変わる
プロローグでは、「 カルステン・フグリーン 」という写真家が、惨劇の現場である寒村の「 ヘッシューヴァレン 」へたどり着くまでを語りますが。
すぐに、「 エリック・ヒュッデン 」という警察官に変わります。
そして、警察官「 ヴィヴィ・スンドベリ 」へと移り変わり、このままこの人が「 主役 」として事件を語っていくのかと思いきや。
ヘルシングボリの裁判官「 ビルギッタ・ロスリン 」が登場します。
この女性裁判官が、主要人物として寒村の虐殺事件に関わっていくことになるのです。

「 ヘニング・マンケル 」の、ズルいというか凄いと思わされたのが、まずこの点でした。
こんなに語り手が変わるのに、バックボーンがきちんと作られているため、どの人物にも感情移入できてしまうのです。
その人物の立場と位置で事件を見ていき考えて、さあ深く探っていこう!という時に、語り手が変わる。
また、違う視点から事件を見直すことになります。
そうすると今で見ていた事件とは、まったく違う面が出てくるのです。
もちろん「 犯人 」も、重要な語り手として出てきます。
ですがそれは、読者に重要な情報を隠そうとする「 叙述トリック 」というものではなく、純粋に犯人からの視点での語りになっているのです。
人の数だけ「 正義 」が違うし「 悪 」も違うということを、頭では知っていても。
こんなにも自然に、読ませることができるのか!と驚きました。
ビルギッタとともに揺れ動く
主役の語り手である「 ビルギッタ・ロスリン 」は、学生時代に中国の革命指導者の思想に傾倒し、学生運動に参加した青春時代を送っていました。

「 ヘッシューヴァレン 」での村人虐殺事件の犠牲者のなかに、自分の母親の養父母がいるかもしれないという疑問からビルギッタは事件に関係していきます。
裁判官という職業から「 ちょっとした違和感 」に敏感なビルギッタは、警察の気づかない証拠から事件の真相に近づいていきます。
が、ビルギッタの言う事をまったく重要視しないヒューディクスヴァル警察署の方々なのです。大変ヤキモキします!
まあ、その「 証拠 」が、「 被害者の所有していた日記 」や「 現場に落ちていた赤いリボン 」などでは、確かになんてことないと思ってしまうのも分かります。
大事なことがとても小さなことなのです。
「 これは警察という機構には犯人に辿り着くのはむりではないだろうか? 」という予感は、現実のものとなっていきます。
このまま、犯人は自分の復讐を遂げて、逃げ切ってしまうのだろうか?そういう物語なのか?と、思いながら読み進めていくと。
夫婦関係の変化や、これからの人生のことなどを考えながらも、事件に引き寄せられていくビルギッタの姿が。

ビルギッタが自分でも知らず知らずに、危険の渦中に飛び込んでいくのをみてると、ハラハラしまくります。
ですが、裁判官といえどビルギッタにも恐怖心はあります。
あまりにも踏み込みすぎたのに気づき、慌てて引き返そうとするのですが時すでに遅し!どうなるビルギッタ!?
そんな人間味のある、スーパー主人公にはなっていない点で、ビルギッタに好感がもてました。
壮大な中国の歴史の一粒からはじまった
タイトルからも分かると思いますが、この作品ではスウェーデンから遠く離れた国、中国が中心にいます。
「 北京から来た男 」上巻の第二部「 ニガー&チンク 」だけでも一冊の本になってしまうくらいの長い長い、「 ワン・サン 」という男の過酷で残酷な半生の日記。

19世紀の貧困にあえぐ中国から、開拓時代のアメリカへと。
そこから全ては始まります。
貧しさと差別に苦しめられてきた過去の中国と、発展した社会にみえる現代の中国がつながる時。
スウェーデンの事件へとたどり着くのです。
なんのこっちゃ?と思われるかもしれませんが、こればっかりは読んで、感じていただくしかありません。
この作品、ちゃんと北欧ミステリなのですが。
Amazonの作品レビューにあった「 大河小説のよう 」という表現が、とても合っていると思いました。
犯人側からの視点

「 ヘッシューヴァレン 」での村人虐殺事件を計画した人物。
これは、上巻の内から出てきます。
この作品「 北京から来た男 」は「 傑作ミステリ 」とは銘うってはありますが、「フーダニット」を問うような小説ではないので、ネタバレにはならないと判断して記載します。
…って、そうなんです。
「 ヘッシューヴァレン 」での村人虐殺事件の犯行状況の解明などは、この作品ではまったく焦点にならないのです!( 警察ではもちろん調べていますが )
いくら雪の中での犯行といっても。隣の家に気づかれずに、村人たちを次々と虐殺していくって、すごく大変だしバレる恐れが強いですよね。
そこをどう解決したかということは、出てきません。( マジ )
この作品の大事なところは、そこではないのです!
「 強い復讐の動機 」と「 それを成し遂げる強い意志と行動力 」
を、読む作品だと感じました。
まとめ
いかがだったでしょうか。
正直いうと、はじめは謎解きのミステリ小説としてのおもしろさを求めて手に取りましたが。
壮大な大河ドラマを読んでいるようだ、と途中から感じていました。
駆け引きと、裏切り、弱者は容赦なくひきずり降ろされ退場する。
目を背けたくなるような行いや、差別から生まれた歴史。
現実にあったことを織り交ぜ、問題提起もしながら、犯罪小説として虚構の物語をみせてくれたヘニング・マンケルの「 北京から来た男 」
上・下巻で長かったですが、読めてよかったと思っています。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
まめでした。
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