今回は、北欧ミステリー小説「 声 」の感想レビューしていきます。
わたしを「 北欧ミステリー 」の沼に引きずり込んだ作家「 アーナルデュル・インドリダソン 」の著作。
原題は「 oddin 」となっています。アイスランド語で「 声 」「 音声 」を意味するそうです。
結論から言うと、捜査官エーレンデュルの人間性に興味があるかないかで、読後の満足度は変わってくると思いました。
とにかく中年の男が、ぐるぐると自問自答しているシーンが多いので、そういう深く沈んでいく心理状態が苦手な方はやめておいたほうがいいです。
というか、「 暗く閉鎖的 」なのが「 北欧ミステリー 」の特徴なので、北欧ミステリーに興味のある人でそういうかたは少ないと思いますが。笑
犯人などの重要なネタバレはなしで、紹介していきたいと思います。
心理描写に重きを置いているので、北欧ミステリーに興味はあるけど、残虐な描写は苦手という方には抵抗なく読める作品になっています。
シリーズの3作品目なので、できれば作品順に読んだほうが理解が早いとは思いますが。わたしのように、2作品目から読んでもハマれる作家さんなので大丈夫なのではないでしょうか。笑
これから読もうか迷っている方の参考になれば、うれしいです。
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エーレンデュルシリーズの3作目
今作の「 声 」は、捜査官エーレンデュルのシリーズ3作目に当たります。
「 湿地 」「 緑衣の女 」に続く3作目は、より捜査官エーレンデュルの閉ざされた心の奥の奥を、ひたすらに追いかけていく描写が続きます。
クリスマスシーズンのホテルは海外からの観光客で賑わっていて華やかですが、そこに事件の捜査で入り込む異物のようなエーレンデュル。
同僚たちにクリスマスをどうやって過ごすのかを心配され、同情によるお誘いを断る言葉を探すのも面倒くさい状態です。
あらすじ
クリスマスシーズンで賑わうホテルの地下室で、一人の男が殺された。
ホテルのドアマンだという地味で孤独な男は、サンタクロースの扮装のままでめった刺しにされていた。
誰とも交流のなかった孤独な中年男を、誰がなんのために?
捜査官エーレンデュルは捜査を進めるうちに、被害者の驚愕の過去を知る…。
被害者の人となりや、過去が明らかになるまでが結構長いです。
逆にいうと、そこまでして被害者が自分のことを頑なに秘密にして、世間から隠れてきたということになるのでしょう。
登場人物たちの名前を声に出して読んでみよう
- エーレンデュル( レイキャビク警察犯罪捜査官。自分の殻に籠りたがる )
- エリンボルク( エーレンデュルの同僚。洞察力がある )
- シグルデュル=オーリ( エーレンデュルの同僚。アメリカ好き )
- ヴァルゲルデュル( 病理学研究所の助手。長身で金髪の笑顔の美しい女性 )
- エヴァ=リンド( エーレンデュルの娘。離婚して以来会っていなかった。すぐ怒る )
- グドロイグル・エーギルソン( 被害者。ホテルの地下室で暮らしていたドアマン )
とりあえず、ここまで覚えたらこっちのものです。笑
日本語の発声には、なかなか出てこない文字列なので初見はびっくりしましたよ。
特に「 ヴァルゲルデュル 」(!)どこぞの呪文詠唱ですか?って感じで、声に出してみて舌がつりそうになりました。
日本人の筆者からしたら「 シグルデュル=オーリ 」に至っては、もはや言いたいだけのような気もしてくる(失礼)
舞台はホテル
支配人いわく「 レイキャビクで2番目に高いホテル 」で、起った「 不祥事 」という名の殺人事件です。
いつものことですが、今回は特に関係者たちが非協力的です。同僚が殺されているのに、なんで警察がここにいるんだ迷惑!という態度を隠しません。
現場は地下室なのですが、その上のホテルはクリスマスシーズンのため、観光に訪れた海外からのお客が大挙して押しかけている状態です。
よく日本の小説にある「 ホテルを封鎖して関係者をすべて調べあげるぞ! 」とかが難しいです。
「 クリスマス休暇 」があるお国柄なので、捜査そっちのけでケーキやクッキーを作りたがるひとが多すぎるのも一興です。笑
そして今作は、なかなかホテル以外に場所が変わりませんでした。
エーレンデュルも家に帰らずにホテルに泊まることにしてしまったので、外にもあまり出ません。ホテルのバーやラウンジ、客室。ほぼ、ホテルの中でのシーンです。
ただ、エーレンデュルの心情風景で山や雪が出てくるので、狭い場所での閉鎖感は感じませんでした。
閉塞感はありまくりますが…。
交差する3つの事件
メインの「 ホテルでのドアマン刺殺事件 」は、「 被害者はどういった人物なのか? 」がなかなか明らかになりません。
紳士的でやさしいとの形容はされるのに、交流していたという人は誰もいないのです。
被害者自身が自分の存在を消したがっていたかのように、グドロイグルという人物がどんな人生を送ってきたのかが謎に包まれているのです。
そしてメインの事件が難航する中、それとは別のふたつの事件が折り重なってきます。
1つ目は、エリンボルクが担当する「 父親による息子への虐待とおもわれる事件 」
おりしも逮捕された男( 父親 )の裁判が始まります。母親は精神的な病気で入院しており、状況的には真っ黒な父親ですが。
虐待された被害者のはずの男の子は何も語らず、ただ「 パパに会いたい 」とだけ言います。
2つ目は、エーレンデュルの過去に起った「 雪山での遭難事件 」
どの事件も、厳しい状況に陥ったときの家族の在り方が描かれていますが、ひとは絶望的な現実を前にしてどんな行動をとるかは分からないものだな…と感じました。
いつも頼りになって強いひとが、前に進むためにすぐに立ち直れるとは限らないのです。
気になったキャラクター
今作で気になったキャラクターは、エヴァ=リンドの仲間だった「 スティーナ 」です。
多くは出てきません。ただすごく心に引っかかる存在でした。
職業は「 コールガール 」いわゆる高級娼婦です。
つい先日、豊胸手術をしたばかりのパンパンの大きな胸が待ち合わせの目印。
ホテルでみかけた知り合いを「 頭がカラッポ 」と評し、自分のことは「 高校卒業試験に合格したのよ! 」と誇らしげに話します。
何とは言えませんが、自分より下にみえる人をみつけて貶めている反面。
「 30万クローネをかけてシリコンを入れた傷口を気にする 」コールガールのスティーナの姿に、なんとも言えない気持ちになりました。
ちなみに30万クローネは、日本円で410万2,720円(2025年2月6日現在のレート)だそうです。(!)
まとめ
いかがだったでしょうか。
正直いって、「 湿地 」と「 緑衣の女 」を読んで満足してしまい、3作目以降を追っていませんでした。
「 北欧ミステリー 」はすごく面白いんですが、続けて浸ると心が持たなくなるんですよね。汗
それがなぜ、いま読もうと思ったのか?
ここ最近「 北欧ミステリー 」の連続ドラマをいろいろ見てみて、あらためて「 小説 」を読んでみたいと思ったことです。
そこで沼入りのきっかけだった「 アーナルデュル・インドリダソン 」の復活です。
数ページを読んでみて、やはり読みやすく情景が浮かぶ文章でした。
そして、「 声 」のはじめページにあった「 詩 」がとても美しかったというのがあります。
輝かしいもの、恋い焦がれても手に入れられないものを、追い求める気持ち。
これはぜひ、読んでみて感じてほしいです。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
まめでした。
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