今回は、フランスの作家 ジェローム・ルブリ著作の「魔王の島」を読み終えましたので、感想レビューをしていきたいと思います。
2019年度コニャック・ミステリ大賞受賞
幾重もの罠を張り巡らせた真のサイコ・ミステリー
という、謳い文句に。
「 北欧ミステリ 」は好きでも、「 サイコサスペンス 」「 ホラー 」が苦手な筆者は大丈夫かな?と心配でした。
ですが、この「 魔王の島 」はすんなりと入っていけましたし。
先が知りたくて夢中になり、午前2時まで読み続けてしまいました。
もちろん、「 サイコ・ミステリー 」の名にふさわしい、読後の「 報われなさ 」に2・3日ずっとモヤモヤしていましたけど…。
作品のよかったポイント、これが苦手なら気をつけたほうがいい人、などを。
犯人などの重要なネタバレはなしで、紹介していきたいと思います。
思いっきり騙されてみたい方、「 後味のわるい 」ミステリを読んでみたい方。
よかったら、みていってください。
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魔王の島

- 著者: ジェローム・ルブリ
- 訳者: 坂田雪子・監訳, 青木智美・訳
- レーベル: 文春文庫
- 発売日: 2022年09月01日
- 出版社: 文藝春秋
- 総ページ数: 480ページ
あらすじ
都会のパリを離れ、片田舎のジャーナリストとして暮らし始めたサンドリーヌ。
疎遠だった祖母シュザンヌが亡くなり。祖母が暮らしていたノルマンディー沖の孤島へと、遺品の整理と故人のことを知るために向かうことになる。
戦後に子どもたちの育成支援のためのキャンプ職員として島に渡ったシュザンヌと島の住民たち。しかしその後、子どもキャンプは閉鎖されたのに、なぜか島の外との交流を断っている。
「 魔王 」がくるという言葉を残して、島の住民のひとりがまた亡くなっているのがみつかる。
電話も破壊され、危機的状況に陥る島から脱出しようとするサンドリーヌだったが。
つぎに浜辺でみつかったサンドリーヌは、血まみれの姿で歩いているところだった。

みちしるべ
第一のみちしるべとして、「島」へ渡ろうとするサンドリーヌと、「島」での過去の出来事が語られます。
祖母のシュザンヌは「子どもキャンプ」に参加していた、子どもたちから毎晩「 魔王 」がやってきて怖いことをされると聞かされます。
やがて海難事故が起こり、子どもたちはひとり残らず帰らぬ人となってしまいます。
「 魔王 」とは誰だったのか?
「 島 」での事件を解明する話なのかと思って読み進めるのですが、「 事件 」はまったく違う様相を見せ始めます。
登場人物
- サンドリーヌ・ヴォードリエ
- 新聞記者。スタイルがよく整った顔立ち。左手首の傷跡を隠すように幅広の革のバンドをしている。
- シュザンヌ・ヴォードリエ
- サンドリーヌの祖母。ノルマンディーの孤島に住む。かたくなに島の外との交流を断ってきた。
- ダミアン・ブシャール
- ヴィレール=シュル=メール警察署の警部。警察署が閉鎖されようとしている危機感から、サンドリーヌが関係した事件を早く解決しようとする。5年前に娘が行方不明になってしまう。
- ヴェロニク・ビュレル
- 強気な精神科医。若く、経験がないと下に見られがちなことを不服に思っている。
他にも島の4人の住人で、元・子どもキャンプ<幸せな世界>の職員たちがいます。

- フランソワーズ
- シュザンヌと親友だった女性。戦争中にドイツ人たちと関係していた過去がある。
- ヴィクトール
- 料理人。島で唯一の食堂でいまも腕を振るう。
- モーリス
- 子どもキャンプで農園を管理していた。
- クロード
- 医師。シュザンヌを看取った。
「 魔王 」
作品中ずっと黒い雲のように厚く覆っていて、登場人物みんなの中に登場するのが「 魔王 」と呼ばれる存在です。
ゲーテの詩「 魔王 」の一節が、要所要所で何かを訴えるように出てきます。
可愛い坊や 一緒においで
きみと楽しく遊んであげよう
ゲーテ『魔王』
誰かを責めるように、執拗にでてくる「 魔王 」に、読むたびに胸が苦しくなる圧迫感がありました。
「 誰が 」魔王なのか?

関係者は「 魔王 」に意味をもたせて、その存在を消し去ろうとしますが。
また新たな「 魔王 」が出現するのです…。
「 聞かせてよ 愛の言葉を 」
サンドリーヌの祖母シュザンヌが好きだった、古いシャンソンの曲「 聞かせてよ 愛の言葉を 」が随所で流れてきます。
サンドリーヌはその曲を聞くたびに、嫌な感覚に襲われます。
なぜだか分からないけれど、無性に胸がざわついてくるのです。
このように、サンドリーヌを嫌な感覚にさせる事柄や事象がたびたび出てきます。
読者は、なぜそのことがそんなに引っかかるのか分からないまま読み進めることになります。
しかし、そうのうち自分もその「 なんだか嫌な感覚 」を共有しているような気持ちになってくるのです。

古いシャンソンの曲「 聞かせてよ 愛の言葉を 」や「 魔王の詩 」が出てくる度に、胸がざわつくような気分で読むようになっていくのが上手いな〜と思いました。
各章のタイトルにも意味がある
この作品は、幾重にも張られた伏線に思考が絡め取られて、天地がひっくり返るような転換を迎えます。
読み終えたあとの一言としては、「うわぁ~…うー…ああぁ〜もう!」でした。(言葉にならない)
もう一度、読み返してみると、見事にすべてのことに意味があって。
「 ちゃんと書いておいてくれてあるじゃん! 」みたいなこともありました。
一応、筆者も推理などしながら読んでいましたが。
最後は、そんな。
犯人がどうとか、「 魔王 」の正体を見破ろう!なんて、どうでも良くなってしまいます。
正直言って、この作品はきれいに騙されてみた方がいいと思いました。
それで、何かが報われるということがないのが、この作品のやるせなさなのですが…。

気をつけたほうがいいポイント
「 サイコ・ミステリー 」との謳い文句ですが。
やはりその名の通り、子どもの残酷なシーンが出てきます。

「 サイコサスペンス 」や「 ホラー 」ほど、リアルに残虐行為を描写してはいませんので、苦手な筆者にも読み進められたのですが。
それを想像させる表現や文章がうまいので、苦手な方にはキツイだろうと思います。
「 子ども 」の関係する犯罪が苦手な方は、気を付けてください。
中学生の娘をもつ筆者にも、目を背けたくなる表現がありました。
作者 ジェローム・ルブリ
『 その女アレックス 』のルメートル、『 黒い睡蓮 』のビュッシ、『 パリのアパルトマン 』のミュッソに続くフランスの刺客、ジェローム・ルブリ。
その大胆不敵な怪技をご体験ください。
(引用:楽天Kobo内容紹介)
「 フランスの刺客 」っていうのに、惹かれました。
ジェローム・ルブリは「はじめまして」の作家さんでした。
ジェローム・ルブリ
1976年フランスに生まれで。
イギリスやスイス、フランスのレストランで働きながら執筆活動を続け、2017年に長編小説『 Les chiens de Detroit 』でデビュー。
『 魔王の島 』( Les refuges )は彼の第三長編であり、2019年にコニャック・ミステリー大賞を受賞しました。
この作品は日本でも高く評価され、『 このミステリーがすごい!2023年版 』海外部門第10位にランクインしています。
(引用:perplexity)
けっこう苦労人の作家さんだったんですね。
今は執筆に専念されているということで、楽しみにしています。
「 楽天Kobo 」
今回、ジェローム・ルブリ「 魔王の島 」に出会えたのも。
文春文庫の作品を対象にした、(なんと)「 50%OFFクーポン 」の対象作品だったからでした。
筆者は「 おもしろい作品 」を求めて実店舗の本屋さんに行ってみても、本が多すぎて結局なにを買っていいか分からず帰ってくるということがありました。
自分に合うか分からない1,200〜600円ほどする本を、気軽にほいほいたくさん買うのも勇気がいりますし。
その点では、気になった作品を「 楽天Kobo 」で試し読みができたので、文章の感じもつかめたのが大きかったです。
このときに、ジェローム・ルブリの別の作品の「 魔女の檻 」も購入したので、またこの世界に入れると思うとゾクゾクしています。

まとめ
いかがだったでしょうか。
ジェローム・ルブリ著作の「魔王の島」。
思いっきり騙されてみたい方、「 後味のわるい 」ミステリを読んでみたい方にピッタリな作品でした。
筆者は正直「イヤミス」(読後が嫌な気分になるミステリー)が苦手なので、避けてきたのですが。
この作品は、嫌な気分というより。
何もできない自分に、無力感を感じた作品でした。
起きてしまったことに対しての、もうどうしようもないという「 やるせなさ 」を痛烈に感じました。
ぜひ、この「 魔王の島 」の世界に浸ってほしいと思います。
読んでくださって、ありがとうございました。
まめでした。
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