今回は、ミステリーの女王アガサ・クリスティが1944年に発表した傑作ミステリー小説「 ゼロ時間へ 」( 原題:TOWARDS ZERO )が大変に面白かったので感想レビューしていきます。
アガサ・クリスティが自作ベストテンに選んだ作品ということで、興味を引かれました。
風光明媚だが寂れた漁村ソルトクリーク。その険しい崖に建つお屋敷・ガルズポイント。
関係者たちは様々な事情を抱えながら、ガルズポイントへと集まっていきます。
バラバラだった謎や会話。はじめから物語に漂う「 なにかが起きるが、なにが起きるか分からない 」という不穏な空気感。
一見関係のない事柄までも、魔の瞬間「 ゼロ時間 」へと集約されていく。
ジリジリとした、もやもやとした空気感を味わいたい方に!
ちなみに「 ゼロ時間へ 」ではアガサ・クリスティ著作で有名な探偵エルキュール・ポワロやミス・マープルの代わりにバトル警視という、真面目で実直に捜査をこなす捜査官が登場します。
ですが、作中でチラッとポワロの名前が出てくるので、同じ作者のパラレルワールド的な感じでニヤッとしますよ。
今回も犯人などの重要なネタバレはナシで、感想レビューしていきます。
読書選びの参考にしてみてください。
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「 ゼロ時間へ 」

- 初版発行日: 2004年05月15日
- 著者/訳者: アガサ・クリスティ/三川基好
- レーベル: ハヤカワ文庫
- 出版社: 早川書房
- 発行形態: 文庫
- ページ数: 382p
登場人物たち
- カミーラ・トレシリアン
- サー・マシューを亡くしソルトクリークの屋敷で暮らす老未亡人。昔ながらの女性
- メアリー・オルディン
- カミーラの世話係をしているトレシリアンの遠縁の親戚。髪に一房の白髪がある
- ネヴィル・ストレンジ
- 万能なスポーツマン。紳士的で感情的になったことがない
- ケイ・ストレンジ
- ネヴィルの二番目の妻。奔放な性格だが欲しいものを手にいれる為には計画的
- オードリー
- ネヴィルの最初の妻。つかみどころのない雰囲気の女性。手と足がとても小さい。
- テッド・ラティマー
- ケイの昔馴染み。美形ながら平気で犯罪を起こしそう。水に入ることができず泳げない
- トマス・ロイド
- オードリーの遠い従兄弟。人並外れて寡黙。怪我の影響で右の腕と肩がうまく動かない。
- アンガス・マクワーター
- 自殺し損ねた男。嘘をつくことができない

今作では主人公がストーリーを語る方式ではありません。
各章ごとに「十一月十九日」のように日付が明記され
その時に起こったことが書かれていきます。
ちがう場所でバラバラに起こる事象を読むので、はじめは人間関係を把握するのにちょっと戸惑うかもしれません
「 ゼロ時間 」とはなんぞや
原題は「 TOWARDS ZERO 」翻訳すると「 ゼロに向かって 」となります。
プロローグ(序章)で、暖炉を囲む法律に関わる人たちの中。経験豊富な老弁護士ミスター・トレーヴが言います。
「 わたしはよくできた推理小説を読むのが好きでね 」
「 ただ、どれもこれも出発点が間違っている!必ず殺人が起きたところから始まる 」
「 しかし、殺人は結果なのだ。物語はそのはるか以前から始まっているー 」
「 ゼロ時間だ。そう、すべてがゼロ時間へと集約されるのだ 」


筆者が読んでみて行き着いたのは「 ゼロ時間 」とは「 殺人 」そのものではない。
殺人は結果である、が。
犯人の「 目的達成の瞬間 」が「 ゼロ時間 」なのではないだろうか?ということでした。
いわゆる「 普通 」のミステリ小説とはちょっとちがう
さあ、老弁護士ミスター・トレーヴがこれから起こるであろう犯罪の「 ゼロ時間 」への前提を示してくれました。
「 魔の瞬間 」に向かって物語は進行していきます。

ネヴィルはオードリーを裏切って、若く美しいケイと結婚しました。
そんな3人が9月に同じソルトクリークの屋敷・ガルズポイントで休暇を過ごす。
平穏無事に楽しく過ごせるとはとても思えません。

オードリーに想いを寄せるロイドや
果ては自殺に失敗した謎の男までガルズポイントに集まり始めますが、
なかなか事件らしい事件は起こりません。
ただ明確にあるのは、「 これからなにかが起こるであろう 」という不穏な空気です。
( ミステリー小説なので当たり前ですが )
まず「 殺人が起こってから探偵が登場してトリックを見破って 」という順序ではありません。
手っ取り早く殺人が起きて、「 犯人がどうやって被害者を殺害したのか 」が
読みたい人には、この作品は不向きだと思います。
謎が点在する
ガルズポイントで繰り広げられるネヴィル、オードリー、ケイの不穏な三角関係。
オードリーに昔から想いを寄せるトマスも参戦してきます。
そこに「 ゼロ時間 」に想いを馳せた経験豊富な老弁護士のトレーヴがやってきます。
そしてトレーヴは昔の事件を語りだすのです。
ふたりの子供が弓矢で遊んでいた。
ひとりの放った矢がもうひとりの子供に当たった。
場所が悪くて致命傷となり、子供は亡くなった。
不幸な事故

しかしその事故は、巧妙に計画された殺人だった。
その殺人的傾向を持った加害者は、ある特徴を持っているためにトレーヴはその人物を見たら分かると言う。

この場でこの話をした意味はなんなのか?
その人物は関係者の中にいて、これからまた事件を起こすのか?
ゾクゾクする展開になってきました!
いよいよ起こる殺人
物語も半分以上過ぎたころ、ミステリー小説らしい殺人事件がついに起きてしまいます。
ですが、不穏な三角関係を読んでいたので、てっきり3人の中の誰かに不幸が起きるのかと思っていたら!

殺されたのはガルズポイントに住む金持ちの老婦人、カミーラでした。
昔ながらの女性で礼節を重んじる貴婦人。
ガルズポイントに集まったみんなにも、使用人にも慕われていました。
しかしなんと、それぞれに金銭的であったりカミーラがいなくなったことにより得をするような、犯行の動機らしきものがあったのです。

誰がなんのためにカミーラを殺したのか?
老弁護士トレーヴが語った昔の事件は、カミーラ殺人事件と何か関係があるのか?
不穏な三角関係は、事件とは関係ないのか?
謎が謎を呼びます。
謎の男
嘘がつけずに、仕事を失い妻も失って自暴自棄になった男アンガス。
崖から飛び降りて全てを終わらせようとしますが、失敗して病院のベッドで看護師相手にクダを撒く日々です。

そんな、自殺に失敗した謎の男アンガスまでもが、ガルズポイントに向かうのです。

アンガスは最後の最後まで謎の人物でした!
すーっと、この人の役割はなんなんだろう?と、
思いながら読んでいました。
バトル警視が登場するシリーズ
バトル警視は実直でコツコツと捜査をするタイプなので、一見すると地味に見えます。
優れた観察力や人間心理に精通していて、事件の全てを見通せるという天才的なポワロやミス・マープルとは違います。

ですが、「 何かがちがう 」といった直感力に優れていて、
人に寄り添うことのできる人物です。
そんなバトル警視の登場する作品は多くはありませんが、必読です!
- 「 チムニーズ館の秘密 」(1925年)
- 「 七つの時計 」(1929年)
- 「 ひらいたトランプ 」(名探偵ポワロシリーズ/1936年)
- 「 殺人は容易だ 」(1939年)
まとめ
いかがだったでしょうか。
2025年3月にイギリスBBCで実写ドラマ化もして、ミステリーチャンネルで日本初放送をされたアガサ・クリスティ著作「 ゼロ時間へ 」
ドラマで見る前に、原作小説をちゃんと読んでみたいなとの思いもありました。
さすがは、アガサ・クリスティが自作ベストテンに選出するだけのことはあります。
1944年の作品ということで、今から(2025年12月現在)81年も前に発表されたんですね!
今回筆者が読んだハヤカワ文庫の「 ゼロ時間へ 」も初版は2004年ですが、翻訳に不自然なところがなく楽しく読めました。
いつもの名探偵たちは登場しませんが、バトル警視が活躍する傑作をぜひ読んでいただきたいです!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
参考になったら嬉しいです。
まめでした。



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